THE GUILD 先生対談 【後編】 授業に込める各々の想い
20人弱のメンバーが所属しているTHE GUILD。実はデザイナーやエンジニアの仕事と並行して、大学や専門学校で先生として活躍しているメンバーも多いのです。
今回は、今年から教壇に立つこととなったデザイナー、吉竹さん(@ryopan)企画による先生対談を決行。吉竹さん自身のお悩み相談から、THE GUILDメンバー各々が先生を続けている理由までをざっくばらんに話してもらいました。
前編に続き、後編をお届けします。(前編はこちらから)
参加メンバー
大宮 聡之(@we6tr0n):UI/UXデザイナー/東京造形大学 メディアデザイン専攻 非常勤講師
奥田 透也(@alumican_net):インタラクションデザイナー/多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
北田 荘平(@soohei):デザイナー/エンジニア、多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
国分 宏樹(@cocopon):デベロッパー/デザイナー、多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
吉竹 遼(@ryopan):デザイナー、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 非常勤講師
授業の目標や評価のポイント
北田:吉竹さんは、授業を通して学生にどんなことが出来るようになってほしいですか?
吉竹:裏目標として持っていることの一つはツールを使いこなしてほしい、ということです。
吉竹:今はAdobe XDをメインツールとして使ってもらっているんですけど、僕は学生にショートカットを必ず使ってということを口酸っぱく言っています。何かしらのソフトのショートカットを使いこなす感覚を覚えてもらえたら、他のツールにも応用が効くじゃないですか、授業を通して自分の道具を使いこなす感覚を身につけて欲しいなと。
あと、僕の授業で作るものはかなり具体的で、一つサービスを考えてもらいそれをプロダクトに落とすというところまで取り組んでもらうんですけど、それだけではなく、仮説検証を通して広い視点でものごとを見てみることや、プレゼンテーションを通してどう人に情報を伝えるかというような抽象的な部分まで学んで欲しいなという想いがあります。これは自分の中の目標であって、学生には伝えないようにしているんですけど、UIデザインは若干手段的な感じで見ている部分があります。
大宮:確かに。僕の授業でもデザインスプリントでプロトタイプを作ってもらうんですけど、プロトタイプの内容自体はあまり評価の対象に入っていないんです。どちらかというとデザインスプリントの意義をどう捉えて、どう生かしたかということのほうに重点を置いて評価をしています。自分のアイデアを落とし込むそのプロセス自体が上手くワークしていて、最初の課題解決につながるプロダクトが作れているかというところが重要なんです。
ちなみに、長期休暇の話がありましたけど、皆さん休んじゃった子のケアとかどうしてます? cocoponが話していたオンラインでいつでも見れる資料を用意してあげるみたいなこともソリューションの一つですよね。
国分:演習の時間に「ついてこれてる?大丈夫?」って声をかけにいったりはしますね。
北田:モニターがちゃんと動いているかどうか、後ろからもよく見てあげるようにしてますね。
吉竹:僕も資料は基本Googleドライブにあげて、いつでも読めるようにしています。それでもさすがに学生自身で全てを読み解くことは難しいので、手を動かしている時間に個別に話をしにいったり、という感じです。
先生は名前を覚えるのも一苦労
大宮:あと、学生の名前が覚えられない問題、ありますよね。
一同:(笑)。
吉竹:皆さん、常時何人くらいの学生さんを担当されているんですか?
奥田:35人くらいです。僕は元々、名前を覚えるのが苦手なので、何も取っ掛かりがない状態で顔と名前を一致させるのは難しい。なので、何か作品を作ってもらった後に、作品とその子を結びつけて覚えていってますね。作品そのものに性格が現れるので、これ作ったの誰だろう、って。
国分:僕らの授業は、図形を描くところから始めるんですが、最初、みんなに丸、四角、線を引く、というような簡単な命令で自分のアイコンを作ってもらうんですよ。単純な図形しか描けないんですが、制約のある中で作られる絵って結構個性が出るんです。
北田:だから個性の強い子ほど、覚えやすい。今期は20人くらいの学生を教えてますが、6月くらいにはもう覚えられましたね。
大宮:すごいな。僕は2年生も3年生も30数名いるので、一生懸命取り組んでくれる子とか何かしら特徴のある子くらいしか、残念ながら顔と名前は一致してないですね。
吉竹:僕はベタなんですけど、最初の授業のときにみんなに自己紹介をしてもらって、色々細かく聞きます。名前、今まで受けた授業の中で一番おもしろかった授業、一番興味があること、そして卒業したら何をしたいのかということを順番に答えてもらって。興味があることってその人の個性が出るので、そこと写真付きの名簿を結びつけて覚えている感じです。
あとは今期から意識的に学生の名前を呼ぶことにしようと思っていて。なるべく名簿を見ずに。間違えたらごめんなさいをして、という(笑)。
いかに学生の執着心を引き出すか
奥田:これは1期生のころからずっと、どうすればいいんだろうと思っていることなんですけど、美意識みたいなものを持っているのと持っていないのでは、ものを作る精度が変わってくると思うんです。
日々の課題に追われて、解像度を高めたり、ノイズを取り除いていくことに気が向かなくなってしまう学生も多い中で、ものづくりに対して妥協しない姿勢を養うというか、美意識を高める方法って何かあるのかなと。良いものを見せる、みたいなことしか思いつかないんですけど。
国分:結局は、良いものをみせても、それを受け取る力がないと意味が無いんですよね。
奥田:そうなんですよね。良いものを見ても「ああ、いいよね」ってぼーっとしてたら、何にもならない。どこまでの精度で納得いくまでやりきるか、粘り強く取り組むことの重要さにどうやったら気づいてもらえるんだろう、とずっと悩んでいます。
国分:学生が好きなことに対しては爆発的な力を発揮する、という場面を見たことがあります。
僕らの授業の最終課題では、割と自由にやってね、という感じで課題を投げるんですけど、これまでは授業についてこれないような子だったのに、そこでその子自身が好きなテーマを選んでもらったことで、突然、完成度への執着みたいなものが生まれたんです。締め切りギリギリまで粘っていて、「こんなに頑張れる子だったんだ」と驚きました。学生各々の興味にテーマが刺さると急激に伸びたりするかもしれないです。執着心みたいなものはものづくりにおいて大事ですよね。
吉竹:そういう意味では、マンツーマンでもっときめ細やかに指導ができたら変わるのかなという感じもしています。
北田:1人5分として20人全員を回るとなるとそれだけで100分かかってしまうから、なかなか難しいですよね。僕らは2コマ連続の授業で、毎回の授業時間は合計3時間あるから1人最低5分はきっちり使えるんですけど。
国分:それでも時間は足りなくて、課題がやりっぱなしになってしまい、勿体ないなと感じるときはあります。全てにフィードバックすることはできないので。
吉竹:皆さんは宿題って出されてます?
奥田:作業自体はなるべく授業の時間内で終わるように設計しています。ただ、僕らの授業ではフィールドワークが大切で、世の中を見る観察の力を鍛えるみたいなことはクラス内では出来ないことなので、「来週までにテーマを決めて、その視点で見たものを100個集めてきてね」というような宿題は出していますね。日常生活の中にものを観察する視点自体を組み込んでいって欲しい、という思いも込めて。
吉竹:良いですね。
奥田:なんだかんだで数は大事だなと思っていて、100というのはあくまで切りが良いから課しているんですけど、誰でもパッと見て集められてしまうものに大したものは無いと思っていて、何か苦しんで苦しんで見つけ出すことができたことで、ようやく目の筋肉が鍛えられる、みたいな。学生たちにはそこまでたどり着いて欲しい。
だから100個集められたら、200個集めてみてほしいし、今回30個だったという人は、次はあと10個頑張ってみよう、ということなのかもしれない。
国分:筋トレですね。
奥田:そう、筋トレなんですよ。少し負荷が掛かる丁度いい数として100個というのは目安にしています。
北田:その筋トレの成果か、THE GUILDにアルバイトに来ている奥田さんの教え子とお昼ご飯に行くと、面白いものを見つけて突然立ち止まってスマホで写真撮り始めるんですよ。雑草とか。観察が定着しているんですよね、今でも何か見たことのないものを探しているんだなって感心しました。
吉竹:それが習慣になっているってすごいですね。
奥田:頑張ったり意識しなくても勝手に目が何かを探していくという状態になる、というのは僕の授業の目標かもしれないです。
というのも、僕の受け持ってる授業の場合、課題作品が直接そのまま世の中の役に立つことはあまりないと思っています。例えば、世の中のものを抽象化したり図式化したりして本にまとめる課題があるんですが、それがそのまま社会を幸せにするというよりも、その過程で得るプロセスだったり、そういった考え方を習慣化することに価値があります。だから、そこはきっちり身につけてもらいたいですね。
国分:僕らの授業は基本的に宿題は出さないんです。出さないんですけど、面白いテーマを選んだり、導けたりすると、休み時間や放課後で自主的に取り組んでくれる子が多かったりするので、そういうときは良い提示の仕方が出来たんだなと思いますね。基本は自主性に任せています。
ここでちょっと生々しい話を挟んでも良いですか(笑)。教員って授業のコマ数の部分でお金を頂いていると思うんですけど、教材を作る時間って絶対にそこでは収まらないと思っていて、皆さんどうされているのかなと……。
奥田:僕らの場合は、中心となってやってくれている菅先生がアイデアのたたき台を作ってくださっているんです。
一同:へえー。
北田:すごい。
奥田:そうですね、いつも感謝しています。そのたたき台を基にみんなで議論しながら内容を詰めて行く感じです。
プログラミングっぽい課題を与えることもあるんですが、プログラミング言語を生で扱うとそれだけで授業が終わってしまうので、簡単に扱えるプログラミング教材として僕の方で何かしらの言語を使ってフレームワークを作ったりはしています。
去年までは元Flashの「Adobe Animate」をベースにアクションスクリプトをラップしてProcessingっぽく書けるフレームワークを作ってましたね。今年からは「Origami Studio」を使おうと思っていて、簡単にインタラクションや映像操作が出来るテンプレートを作っています。それくらいです。
吉竹:“それくらい”のレベルじゃないですよね。すごいな。僕の授業は先日始まったばかりなんですけど、初回はゼロから考えなければいけなかったので、3ヶ月くらい土日ずっとファミレスにこもってました(笑)。
国分:わかります。資料作り、大変ですよね。
大宮:僕も最初はすごく時間がかかりましたね。2回目以降は授業の進捗に合わせて入れ替えたり、調整をしたりということを、授業の前日に2,3時間位時間をとってやってます。まあ、でもボランティア的な側面が大きいですから……結局やりがいドリブンみたいなところに行き着いてしまう。
国分:そうですよね。僕の今回の資料も、先生がいなくても成立するレベルをつい目指してしまったので、すごく時間がかかっているんです。ネットで公開しているので、もう何というか、人類の役に立つならいいかな、くらいのおおらかな気持ちでいます。
吉竹:僕、大学生の頃にProcessingとかopenFrameworksを勉強していたんですけど、田所(淳)先生の『yoppa.org』に大変お世話になりました。他大の学生でしたが、田所先生に教わったんじゃないか、というくらい。
そういった意味でも、教えることを通して何かを社会に還元していくみたいなのは、教える側として目指すべきところの一つでもあるのかもしれないなと思いました。
デザイナー、エンジニアとして、教育に携わる理由
吉竹:そんなところで最後に、何故皆さんが教育の場に携わっているのか、ということを聞いてみたくて。これまで話していたように、金銭的な面から見てしまうと、むしろマイナスだったりするじゃないですか。
大宮:僕が教壇に立ち続けている一番大きな理由は、学生がデザイナーとして社会に出たときにベースとなるマインドセットをちゃんと教えてあげたいという想いです。
僕自身、大学ではマーカーの使い方だったりとかスキル的な部分のインプットはたくさんした覚えがあるんですけど、デザインという仕事のプロセスだったり、どのようにビジネスに寄与するのか学んだ記憶があまりないんです。欧米の美大ではデザインのプロセスから教えているからこそ、クリエイティブのクオリティも高くなるし、社会に出た時にチームでの振る舞い方も身についている、という話を聞いたことがあって。
一方、日本の美大ではデザインのマインドセットを教えず、自分が満足するものを作るだけ作ってきた子が社会に出ることになる。そうすると仕事としてデザインに向き合った時にどうもしっくりこない、ということが頻繁に起きているという話を聞いて、そこをちゃんと教えていかないととダメだなと思っていて。
技術や知識を習得するのはもちろん必要だけど、マインドセットを学ぶ ―― 学ぶというか、気づいてもらうための種をまくような授業が一つくらいあってもいいんじゃないかなと。
奥田:背負ってる感じですね。
大宮:背負いたいんです。
一同:(笑)。
奥田:僕は、一つは社会的な意義として、統合デザイン学科という新しい学科で、色々な領域を飛び越えながら新しいものを作っていくための考え方を、どんどんリアルタイムに発明している場所にいるという面白さ。それを世の中に出していくことに意義深さを感じています。
もう一つ、個人的な意義というか自分の日々の喜び的な意義としては、僕の年齢の半分くらいの人たちが毎年入学してきて、普通に話せば話なんか合うはずないんですけど、何か作るとか、これが面白い、美しい、というような話題になった時に、全く同じ目線で話が出来る、そういう場所が自分にとってすごく貴重で。年齢や経験関係なく、ものづくりに対して話せる場所があるということ自体が楽しいです。cocopon先生も楽しそうだよね。
国分:僕は教えるのが元々好きで(笑)。複雑なものを分解して筋道を立ててみて、どう?って問うのが好きなんですね。授業では、毎回学生の反応が現場で直接観察できるので、どう改善していけばいいのかという課題が見えてきて、どんどん良いものになっていく。そういう地道な改善を重ねるのがすごく好きというのもあります。
あと、プログラミングって嫌いになられがちなところがあるし、先生によってはついてこれない学生を突き放しちゃうこともあると思うんですけど、自分なら優しく救えるんじゃないかっていう思いはあります。これはおごりかもしれないんですけど……。学生に僕が先生で良かった、と思ってもらえるようになれたらいいなと頑張っているところです。
北田:そう、教えに行っているけれど、学びもあるんですよね。
自分が20代半ばで独立したときは、当時の大学生にアルバイトで来てもらって日々対話をして、彼らが一人前になって巣立っていくというプロセスを見ることができました。
その役割を今は小玉さん(@chiharukodama)の世代が担ってくれているんですが、さらに年齢を重ねた自分が改めて20代前半の子と向き合おうとすると、目線がなかなかあわなかったりする。そうなると僕は上の世代としか関わらなくなってしまうと思うので、教育に携わることで自然と若い世代の子たちと関わる機会が得られるというのは大きいです。
吉竹:僕は理由としては単純です。一つはデジタルプロダクトを学べる場が学校教育にはまだまだ少ないなと感じていたので、いい機会だなと思ったこと。そして、自分が培った知識や経験を学生たちにどのようにに伝えられるのか、試してみたかった。
あと、僕、最終的には小学校とか中学校でデザインを教えられたらいいなと思ってるんです。大宮さんのマインドセットの話じゃないですけど、小中学校の図画工作とは別で、もう少しデザインというものを学べたら、何か変わって行くんじゃないかなということを、学生の頃から考えていて。その頃は別に先生になろうなんて全く考えていなかったんですけど、いい年になってきたし、折角教える機会を頂いたので、まずはやり続けて見て、最終的にはそんなところにたどり着けたら面白いかなと思っています。
吉竹:それでは今回はこのあたりで。本日はありがとうございました!