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THE GUILD 先生対談 【前編】 デザイン教育の現場から

20人弱のメンバーが所属しているTHE GUILD。実はデザイナーやエンジニアの仕事と並行して、大学や専門学校で先生として活躍しているメンバーも多いのです。

今回は、今年から教壇に立つこととなったデザイナー、吉竹さん(@ryopan)企画による先生対談を決行。吉竹さん自身のお悩み相談から、THE GUILDメンバー各々が先生を続けている理由までをざっくばらんに話してもらいました。

前後編に分けてお届けします。まずは前編から。

参加メンバー

大宮 聡之
@we6tr0n):UI/UXデザイナー/東京造形大学 メディアデザイン専攻 非常勤講師
奥田 透也@alumican_net):インタラクションデザイナー/多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
北田 荘平@soohei):デザイナー/エンジニア、多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
国分 宏樹@cocopon):デベロッパー/デザイナー、多摩美術大学統合デザイン学科 非常勤講師
吉竹 遼@ryopan):デザイナー、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 非常勤講師

先生としても活躍するTHE GUILDメンバー

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吉竹:改めまして、本日はお集まりいただきありがとうございます。僕は今年から東洋美術学校のクリエイティブデザイン科で非常勤講師をはじめたのですが、ふと気づけばTHE GUILDのメンバーは先生をやられている方が多いなと。

初年度ということもあって、僕自身も色々と悩みながらカリキュラムや資料を作ったりしているのですが、せっかく近場に先生の先輩たちがいる、ということで、個人的な悩みをみなさんに伺いつつ、学生に教えるという仕事について色々とお話を訊いてみたいなと思っています。

奥田さんは多摩美術大学で講師を始められてから、結構長いですよね?

奥田:僕は多摩美術大学の統合デザイン学科が新設された時からなので、6年目です。1、2年生の通年の必修科目を受け持っていて、1年生はデザインベーシック(表現)Ⅰ インターフェース基礎、2年生はデザインベーシック(表現)Ⅱ インタラクションという授業です。

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1年生のインターフェース基礎は、デザインに限らず何かを実際に作る手前の段階で、世の中をどういった目線で観察すると、どんな意味が生まれるのかということをなるべく多くの視点で掘り下げ、ものの見方を鍛えるようなカリキュラムになっています。

続く2年生のインタラクションは、人とモノの間にどのような情報のやりとりを設定すれば、人の行動や感情をコントロールできるのかということを教えています。1年生のインターフェース基礎で鍛えた情報を見るということから、情報を操作するという方向に切り替え、より実践的にものを設計していきます。

大宮: 僕は東京造形大学でメディアデザイン専攻の2年生と3年生を教えています。2年生はデザインスプリント、3年生はユーザビリティ評価が中心の授業になっています。

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大宮: 2年生のデザインスプリントはデザイン思考とは何かという基礎からはじまり、ワークショップと座学を並行して進めていく感じです。お題を1つ設定して、それに対する課題定義、プロトタイプ制作、バリデートっていうところまでやってもらいます。

3年生はもう少し高度で、まずは座学でユーザビリティとは何かというところから入り、ユーザビリティの定義や計測の仕方を学んでもらいます。その中でヒューリスティック評価のワークショップを行い、その評価によって出てきたものに対し、学生たちに仮説を立ててもらって、ユーザーテストをして仮説検証を行います。

検証結果と仮説を見比べて、優先度や工数を考慮しながら、改善案を考えてもらって、最終的にヒューリスティック評価から結果を出すところまでを整理したスライドとプロトタイプを発表してもらっています。

吉竹: すごい、工数まで。かなり実践的なカリキュラムの授業ですね。cocopon(国分)さんはどうですか?

国分: 僕は多摩美の統合デザイン学科で、3,4年生対象のソフトウェアデザインⅠ・Ⅱという授業を北田さんと二人三脚で受け持っています。

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国分: 奥田さんが受け持っている1,2年生のデザインベーシックの授業では基礎を学んでもらって、僕らが受け持っている3,4年生の授業では実際にソフトウェア(プログラミング)を使ってデザインをしていく、ということを学びます。

美大生って絵がものすごく上手かったり、パッケージデザインが得意だったりと何かしら特技を持っている子が多い中で、彼らの表現手段のひとつとしてプログラミングを加えようというのが趣旨

プログラミング自体未経験の子が多いので、基礎の制御構造から始めて、「自分だけのペンを作ってみよう」というような簡単なインタラクションから、テーマを一つずつ増やしていきます。

例えば、”かたち”のような抽象的なテーマや色のパレットの作り方、もう少し進んでくると、三角関数のような数学的要素を組み込んでみたり、音声や映像をリアルタイムで取り込んで処理してみたりと、さまざまな表現を実際に手を動かして作っていきます。3年生で基礎を身に着けて、4年生は応用編。テーマを与えて実際に動くものを作ってもらっています。

吉竹: 面白そう。僕は東洋美術学校の4年制の学科、高度コミュニケーションデザイン専攻でインターフェースデザインⅠという2年生向けの授業を担当しています。カリキュラムはかなり実践的で、「Adobe XD」を使ってプロダクトのUIデザインを作ることが最終目標

授業内容としては、最初からXDを触ってもらいながら、UIの基礎を並行で教え、XD上でUIデザインを構築できるようになってきたタイミングで、制作課題に入っていくんですが、その前に仮説検証という項目を入れ込んで、自分がやりたいことを一回疑ってみてもらっています。

その後の制作課題では、プレゼンテーションを中間と最終で2回やってもらって、制作物とプレゼンの内容を評価するようなかたちです。

授業内容を設計していくプロセス

吉竹: ……という感じで、お互いがやっていることが見えてきたかなと思うのですが、授業のカリキュラムを考えるのって難しくないですか?

皆さんがどういうふうに今の授業内容にたどり着いたのか、どういう考えでそれを設計していったのかを聞いてみたいのですが、大宮さんの授業はかなり実践的なもので、個人的にもびっくりしました。どういうプロセスで今の授業の形になったのですか?

大宮:全体のプログラム自体は、最初に関わった先生たちで決めていった感じでしたね。ユーザビリティは最初からユーザビリティの授業をしようという話になっていましたし、2年生に関してはカリキュラム上は座学なんだけど、楽しく手を動かせるワークショップを入れたいという話があったので、デザインスプリントがちょうど良さそうだと思って組み込みました。

吉竹:実際に学生さんからの反応はどうですか?

大宮:デザインスプリントはすごく良いですね。みんな楽しんでやってくれています。

吉竹:どの辺りが学生さんが楽しいと思うポイントになっているんでしょうか?

大宮:一つは「デザイン思考という考え方自体に初めて出会う」というところでしょうか。学生さんたちは殆どが”自分の表現をする”というところから大学に入ってくるので、人が使うことを想定して何かを作る/デザインするということをこれまで考えてきたことがない。だから、新鮮に映るんだと思います。

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大宮:二つ目はグループワークですね。デザインスプリントって、一人で考える時間とグループワークの時間があって、それを交互に行い、共有とフィードバックをしあって、自分の中に取り込む⇒表現するということを行き来しながら作業が進んでいくんですけど、グループで何かを作り上げていく面白さ自体を初めて味わったという声も聞きます。美大の授業って、大体一人で考えて、一人で作るじゃないですか。

吉竹:確かに。奥田さんはこれまで授業内容をどうやって決めてきましたか?

奥田:僕が講師をしている統合デザイン学科でいうと、プロダクト、グラフィックや描写などさまざまなことに学生が取り組んでいく中で、インターフェースという授業はどんな立ち位置にすべきなのかということを、6年前、学科が出来たときに色々な先生と話しました。

僕の授業は、僕と菅先生、野間田先生、勅使河原先生という4人体制でやっているんですけど、インターフェースは物作りの基礎 ―― プロダクトを作るにしても、グラフィックをやるにしても、全ての基礎となるような何かをやりたいね、という話から、”ものごとを観察する”というところで授業を組み立てていこうということで、今のような授業になっています。

実際には、まず運用してみて学生たちの反応を見ながらどんどん改善していくというスキームで、時代性や学生たちの状況に応じて、常にアップデートし続けています。普段の仕事の感じに近いですよね。

大宮:なるほど、授業の大枠は最初にしっかり決めて、それを常にアレンジし続けるんですね。

奥田:そうですね、”世の中をいろんな視点で見る、観察する”というキーワードは変えずに、観察する方法やアウトプットは柔軟に変えてます。この課題は今年はイラストでアウトプットしてもらっていたけど、次は写真にしてもらったらどうかとか、学生がよりやる気を出してくれる方法を考えてますね

大宮:それ大事ですよね。

奥田:学生が「やってみたい」と思うアウトプットの在り方を探していかないと、モチベーション下がると何にもならないので

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一同:(頷く)

吉竹:プログラミングとか、未経験の子も多いから、難しそうですよね。

国分:スポンジのように吸収してくれる子もいれば、最初から無理ですと苦手意識を抱えている子もいて、本当に個人差がありますね。

吉竹:カリキュラムや授業内容は、奥田さんの授業みたいに毎年改善されているんですか?

北田:僕らはまだ2年目で、元々深津さんが学科新設時から受け持っていた授業を引き継いだので、深津さんのカリキュラムがベースになっています。そこにcocopon(国分)がいろいろアレンジを加えていっている感じです。

プログラミングだから、段階を追った知識が無いとその先に進めないんですよね。前回の授業でやったことを覚えている前提で進まなきゃいけない、というのは結構難しくて。授業を休んじゃう子もいるし、ゴールデンウィークや夏休みみたいな長期休暇もあるので、休みが明けたときに復習を挟んだりしています。いつ復習を挟むかとか、1回の授業に入れ込む要素は調整しながらやっているところ。

吉竹:ああ、それ僕がまさに最近考えていることです。授業をリニアで作っていくのって結構難しいなというか、どこかに復習するようなサイクルを入れないと身につかないんじゃないかと今、不安に感じていて。

北田:復習、必要ですね。

国分:それ、義務教育でも課題になっていることなんですよね。今の義務教育の科目って一直線に組まれてしまっているから、途中で脱落すると追いつけない

そこで今年の僕らの授業では、先生がいなくてもやる気さえあれば、自分自身で復習に取り組めるくらいの充実した教材や資料をオンライン上に揃えるという取り組みをしています。

(※下記から実際の教材をご覧いただけます)

吉竹:それは良い取り組みですね。

北田:この取り組みの弊害としては、授業中質問が来なくなるんですけど(笑)。資料を見て、コードをコピペすれば動いちゃうから学生が全然困らないという……。

一同:(笑)。

国分:そう、良いことばかりではないんです(笑)。

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北田:授業中に頑張らなくても、あとで資料を見れば大丈夫という安心感が出ちゃう子も居るんですよね。手厚いのもやりすぎると良くない。

吉竹:なるほど、そうですよね。僕も授業で「○○と伝えれば、学生は△△って動いてくれるんじゃないか」という期待をしながら喋ったりするんですけど、まだ塩梅が難しい。

国分:わかんないですよね、どう転ぶか。実際にやってみないと分からない部分が大きい。

大宮:能動的に動いてもらうのはなかなか難しいですよね。僕は基本動き方は全部言うようにしています。それでも言ったことを聞いていないことも多くて、「ごめん、先生が5回言わなかったのがいけなかったね」みたいな……。

一同:(笑)。

大宮:3回では、駄目なんですよ。3回だとまだ聞き逃してて。

北田:だから5回言うんですね。

国分:確かに、話は聞いてくれないですよね(笑)。

誰に、どこまで理解してもらうべきなのか

吉竹:僕は学生全員に同じ学習効果を求めるのは難しいのではと考えていて、どこを”届けるライン”に設定すれば良いのかということに今、悩んでいるんです。

ある程度割り切って、1,2割の学生に本質が伝わればいいのか、または全体の底上げを狙って、少しでも多くの学生にうまく伝わるように最適化していったほうがいいのか、見えていなくて。

奥田:そこでいうと、僕が担当している1,2年生は基礎課程で必修科目なので、基本的に全体の底上げを狙っています。必修科目はその科目で学ぶ内容が普遍的であるから必修になっているわけで、そこにはまず全員が享受できる恩恵がないといけない

授業で学んだ内容に可能性を見出してくれた子は勝手にどんどん伸びていってくれるので、天井は閉じずに開けておいてあげるんです。全体の底上げということは大切にしつつ、「この先にこんなことがあるよ」という可能性を与えておく、そういう授業の設計は心がけているところです。

一方、選択科目は、学生が自分で選択しているわけだから、引っ張り上げる考え方でも良いと思います。

国分:ソフトウェアの授業に関しては、プログラミングと接する最初で最後の機会になってしまう危険性もあるので、ここで嫌いになってほしくないなということは強く思っていることで、どちらかというと底上げで……全員を優しく見守っています(笑)。

奥田:プログラミングってそうですよね。おもしろさまで辿り着けずに嫌いになってしまうのが一番悲しいことだと思います。

国分:だから、ある程度のサンプルがベースとしてあって、まずはパラメータを動かすだけでも面白いよ、というようなハードルの下げ方をしつつ、得意な子はどんどん進めていっちゃうので、授業中の質疑応答や発展課題で個別にケアをしていますね。

北田:プログラミングは使い方がわかってくると、作れるものもわかってくるので、みんな妥当な目標設定をして課題を作ってくれるんですけど、苦手な子に限って高い目標を掲げちゃう傾向がある。何ができるかもわかっていないから、こんな表現がしたい、とアウトプットのイメージだけを最初に描いてしまって壁にぶつかり脱落してしまうんです。できる子は目標設定も妥当に出来るんですけど。

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吉竹:なるほど。面白い。

北田:今年の春学期の中間課題のとき、僕のLINEのアカウントのQRコードを資料に貼っておいたんですけど、質問がバンバン飛んできて(笑)。LINEでProcessingのソースコードが送られてくるのは面白かったです

「もう何をどうしたら良いのかわからない」みたいな質問には、さっきcocoponが言っていたような、パラメータをチューニングするだけで面白いよという方向で、ベースの骨組みを作って渡しちゃうということをやってみたりもしました。資料を見ても作れないし、どうすればいいのかわからなくて悩んでいる、みたいな子でも、拾ったコードを上手に使いこなせるのも立派なプログラミングだよ、と思ってもらえると嬉しいですね。

奥田:大宮さんの授業はかなりフレームワークがきちっとしている中で、どのくらいの自由度を学生に与えながらやっているんですか? 最初に何を作っていくのかを決めるときに、課題自体を一緒に見つけていくのか、それとも課題を与えるのか。

大宮:それはこちら側で決めてしまっていますね。ユーザビリティ評価だったら、3種類くらいのアプリを用意してあげて、そこから選んでもらう。デザインスプリントはこういうものを作るぞ、というシナリオは与えてしまって、そこからスタートしてもらう感じです。

奥田:最終的にグループワークで取り組むんですよね?グループの中でどういった差分が生まれて、どうやって一つに収束していくのか、気になります。

大宮:ユーザビリティ評価は明らかに問題がある部分に関してはみんな大体気がつくんですけど、他の細かい部分で気づくポイントとか、改善の仕方はかなりグループによって違いが出ますね。まるっきり方向転換してくるチームもいたりして、面白いですよ。

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(後編に続く)