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「問いから考えることで、本質を捉えたまま思考を深めていける」 瀬尾 浩二郎 - メンバーインタビュー #08

THE GUILDメンバーインタビュー、第8回目はクリエイティブ・ディレクター/エンジニアの瀬尾 浩二郎さん(@theodoorjp)です。

THE GUILDではディレクターとしてサービスデザインやUI設計といった仕事をしながら、昨年末には哲学カルチャーマガジン『ニューQ』を自ら創刊し、雑誌の編集長としての顔も併せ持つ瀬尾さん。

エンジニアからディレクター業にシフトしていったきっかけや、なぜ今、哲学に注目し、雑誌を創刊するに至ったのか、話を訊きました。

目次
・自社で実験したことをTHE GUILDでの仕事に還元していく
・あえて今、プログラミングから距離を置いてみた
・答えを出すのではなく“問いを立てる”ワークショップ
・アイデアや答えは時代によって変化するが、問いは変わらない


自社で実験したことをTHE GUILDでの仕事に還元していく

THE GUILDでは、奥田さん(@alumican_net)と小玉さん(@chiharukodama)とよくお仕事をご一緒しています。

デザイナーと一緒に企画やUI設計、ワークショップをおこないつつ、自分はディレクターとしてマネジメントなどサービスづくりのお手伝いをすることが多いです。

サービス設計、UI設計の仕事は意外と堅めな案件が好きで「クラウドサイン」という契約書のサービスでは初期のUI設計をさせてもらったり、大学のeラーニングのサービスを作ったり、あと最近は政治系の案件も少しやっていますね。

― 瀬尾さんの自身の会社であるセオ商事(http://theocorp.jp/)と所属しているTHE GUILD。受けるお仕事の違いや使い分けのようなものは意識されていますか?

セオ商事での仕事というのは、本当に色々で。広告系案件の企画から、インタラクティブな展示作品の開発や「漫画の脚本を書いて欲しい」みたいな少し変わった仕事まで、ご相談いただいたものや、自分が面白そうだなと思ったことに取り組んでいます。

最近は自社プロジェクトで、哲学カルチャーマガジン『ニューQ』という雑誌をつくっています。セオ商事でさまざまな実験をしつつ、それをTHE GUILDとして引き受けているサービスデザインみたいなところで活かす、還元していく、ということができないかなと実験しているところですね。

― 瀬尾さんは元々エンジニアだったんですよね。ディレクター業にシフトしていったのは、前職時代になるんですか?

そうですね。(前職である)カヤックに入社したときは、FlashとiOSのエンジニアだったんですけど、植物に電極をつけてブログを書かせるシステムとか、寝言を録るアプリとか、突飛なことばかりやっていて。そのうち、クライアントワークにも企画として参加するようになり、徐々にディレクションを担当することが増えていきました。

テクノロジーを使ったユーザ体験や、インタラクションのあるサービスやコンテンツってエンジニアのほうが考えやすいと思っていたので、エンジニアの自分も企画書を書けたほうが良いと頑張っていた部分もありましたね。


あえて今、プログラミングから距離を置いてみた

企画やディレクション業が増えていったものの、以前は意地でもプログラムを書こうとしていた部分があったんですけど、実は去年からプログラミングを書くことから離れています。

科学雑誌『ニュートン』とのコラボレーションで2015年に制作した星間旅行者のためのAndroid Wearウォッチフェイス「Newton: Interstellar WatchFace」。瀬尾さんはディレクションとプログラミングを担当。

最近、雑誌『ニューQ』を作った流れで、哲学・人文系の本を大量に読まなくてはならず、プログラムを勉強する時間がないという事情もあったんですが、先程言ったようなエンジニアリングからの発想ということ自体を一度やめてみても面白いかなと。

これまで、そういった世界や価値観にどっぷり浸かっていたので、一旦エンジニア目線のバイアスを取ってみたいと思ったんです。

前職で企業向けのアイデアワークショップをよくやっていたんですけど、結局のところ本当の意味で世の中を変えるような何かを一緒に作れたかっていうと、正直なところ作れていないなという反省がありました。

そこを変えていくためには、テクノロジーの使い方が新しいとか、インタラクティブな表現が面白い、といった部分とは別の観点で、イノベーションとか、社会をよくするためにはどのようなコミュニケーションやアイデアが必要か?ということも捉え直さないといけないのかなと思い始めました。

― そのあたりから哲学の方に興味が向いたのでしょうか。

そうですね。前職を離れて独立したタイミングで時間ができたので、今後10年のスパンで何をやっていくかをぼんやり考えていたんです。

自分は元々SF小説を読むのが好きだから、まずはSFを読もうと、SFを読む会をはじめたんですが、その会に哲学と人工知能の研究者、三宅陽一郎さん(@miyayou)がいらっしゃって。彼が「人工知能を作るには、哲学が必要だ」ということで「人工知能のための哲学塾」をはじめると伺ったんですね。

哲学に、何かあるぞという直感がありつつ、それまではどう勉強していけばいいのかわからなかったのですが、“人工知能のための哲学”という切り口が、まずエンジニアとして自分が哲学を学ぶ理由に繋がりました。

「人工知能のための哲学塾」は今シーズンよりセオ商事としてお手伝いさせていただいているのですが、前半に講義、後半は参加者同士でディスカッションをするんです。参加者は、哲学の専門家や、脳神経科学や人工知能といった哲学以外の研究者の方から、ゲームクリエイター、そして興味本位で来てみたという人まで、バラバラ。

ディスカッションでは、例えば「人工知能は時間を感じることができるのか」みたいな問いがあったとして、その問いを基に「そもそもわれわれは時間をどう認識しているのか」とか、そこからさらに「人工知能が時間を認識するには、何が必要なのか」というような問いを立てていき、参加者同士で考えを深めていきます。これはいわゆる「哲学対話」に近い方法です。

これまでもさまざまな案件でワークショップを行ってきたのですが、アイデアを思いつける人や専門知識のある人に発言が偏ってしまうということがよく起こりました。ところが、哲学対話のように「問い」をベースにして考えていくと、誰もがその立場や知識などに左右されず発言できるようになるんですよ。

それは何故かというと、哲学的な問いが普遍的だからなんです。各々が持っている問題意識であったり、わからないことが共有可能な形になって、議論がうまくできる仕組みになっていて。ここには、何かヒントがあるぞと。


答えを出すのではなく“問いを立てる”ワークショップ

問いというのは、「哲学」のベースになるものです。これまで自分がやっていたブレストやアイデアワークショップは“答えを出していく”ことに繋がっていたんですが、反転して“問いを考える”ということにフォーカスしたほうが、本質を捉えたまま考えを深めていくことができる。

それを仕事に活かせないかなと考えて、連載「エンジニアのための哲学講座」を一緒にやっていた田代 伶奈さん(@reina_tashiro)と一緒にはじめたのが「問いを立てるワークショップ」です。サービス設計やアイデアワークショップの最初の段階で、実験的に提案させていただいています。

人工知能のための哲学塾で行った「つまらない問いを面白い問いに変える」ワークショップ

最近は、新しく入社した哲学専門のメンバーであり、『ニューQ』の編集者である今井 祐里(@nunc__)さんと、あるメディア向けに“信頼”と“公共”という2つのキーワードで問いを立てるワークショップを実施したのですが、ワークショップを進めていくと、それぞれのキーワード自体の捉え方が参加者によって異なっているということがわかってきました。

“公共”を例にとると、例えば営利企業の行う業界をよくするための施策は公共的と呼べるのかとか、公共の価値はどのように計るべきかというところに考え方の違いがあったんです。

問いを立てるワークショップの中から、各々が何をどこまで考えていて、どこで悩んでいるのかという核心が見えてくる。また、同じ言葉を使っていても実は別の意味で使っていたということがよくあります。

当たり前だと思っていた言葉の曖昧さ、そして価値観の違いが明らかになるのは、自分たちもクライアントも、お互いに発見があって面白かったですね。

「問いを立てるワークショップ」などを開催していく中で、問いを立てることや考えることは面白いということを、もっとカジュアルに伝えたいと思って、昨年立ち上げたのが『ニューQ』という新しい問いを探す、哲学カルチャーマガジンです。

雑誌『ニューQ』Issue 01「新しい問い号」はAmazon等で発売中

― 紙の雑誌というメディアを選んだのはあえてですか?

オウンドメディア的なウェブメディアにすればいいとか、電子書籍だけで出すべきだ、みたいな話もあったんですけれど、そもそも紙で出版することを知らないまま、デジタルでだけ展開するのも違う、せっかくなら学びの多いほうに挑戦しようと。やってみたら、面白かったです。

雑誌だと、一つの号の中で一つのテーマを設定できるので、テーマをより立体的に扱える。オウンドメディアだと、1コンテンツずつ、またはそのメディア自体にしかテーマを設定しづらいから、雑誌の“号”に当たることがなかなか表現しづらいんですよね。

雑誌編集経験のあるメンバーもいるのですが、自分は雑誌を作った経験はなかったので、編集/ライター講座に通って勉強したりしました。通っている間に、紙の編集という仕事はあまり知識や技術がコモディティ化されてないんだなと気づき、まだ色々と自由にアイデアが出せるのではと可能性を感じたことも、紙を選んだ理由のひとつ。

次号は今年の夏、一番暑い頃にリリースする予定です。


アイデアや答えは時代によって変化するが、問いは変わらない

― ここまでお話をお伺いして、哲学というものが、難解な哲学書に書いてあることを読み解き、その思想を理解したり実践したりすることだけを指しているのではないんだなということが分かってきました。瀬尾さんが考える哲学ってどんなものですか?

問いを立て、そこから考えていくこと。つまり、ものごとの前提を考えていくことだと思っています。いい問いを見つけて、考えて続けていけるところが哲学の面白さですね。

アイデアや答えって、社会状況やテクノロジーの進歩具合のような外的要因によって変化するんですけれど、ベースとなる“問い”は変わらないし、生き永らえるみたいなところがある。

Amazonを例にして考えてみると、「購買とは何か?」という問いを深めていった結果、「購買行為においてユーザーファーストを極限まで突き詰めるとどうなるか?」という彼らにとって核となる問いを見つけています。そしてその問いに対する最適解をその時々の技術によって実現させている。ほかのサービスも考えてみるとそうなんですよ。

問いをしっかり持っていれば、世の中が変化していってもうまく対応できる。それにプラスして、実際それが本当によい問いで、うまくいったのか?ということを、サービスなどを作りながら検証していければ、というスタンスで哲学と向き合っています。

― 問題解決のその先へ、みたいなイメージでしょうか。

そうですね、確かに。問題解決において、そもそもの問題が正しいのかということ自体を突き詰めていくことに繋がる場合は多いです。

これまでのベンチャー的なカルチャーやシリコンバレーイデオロギーって、とにかく作って、あとで考えようみたいな流れでしたが、今はその揺り戻しというか――考えるプロセスに比重を置いて、どう価値判断していくかが求められている気がします。今後はそんなところを深掘りしていきたいです。

― ありがとうございました。


瀬尾 浩二郎 / Kojiro Seo
Creative Director / Engineer
THE GUILD Member, 株式会社セオ商事 代表取締役, ニューQ編集長

大手SIerを経て、2005年に面白法人カヤック入社。Webやモバイルアプリの制作を主に、エンジニア、クリエイティブディレクターとして勤務。2014年4月よりセオ商事として独立。「企画とエンジニアリングの総合商社」をモットーに、ひねりの効いた企画制作からUI設計、開発までを担当している。

Twitter: @theodoorjp