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「過去の思想や文化をもとに、今を形づくり、未来に繋げるブランドデザイン」 麦田 ひかる - メンバーインタビュー #09

THE GUILDメンバーインタビュー、第9回目はデザインディレクター/アートディレクターの麦田 ひかるさん(@HikaruMugita)です。

ご自身の会社、Scannerのデザインディレクターとして、THE GUILDではアートディレクターとして、ウェブやオンラインメディアのUIデザインやブランドデザインに関わっている麦田さんに最近手がけたプロジェクトの話を中心に、ブランドデザインという仕事に対する想い、今後の展望について話を訊きました。

UIデザインからグラフィック、ブランドデザインまで

— 最近関わったお仕事について教えてください。

THE GUILDとして関わった件では、「BEAMS」のEC/ブランドサイトのリニューアルと、「FROGGY」という投資サービスの立ち上げがあります。

FROGGYは、日興証券さんが運営する新しい投資サービスです。

記事からお金や投資に関する知識を身につけ、世の中のさまざまな動きを知り、その中から、実際に気になった企業の株を、500円から買うことができます。立ち上げから約3年。深津さんと一緒にサービスのUI設計を中心に担当しています。

BEAMSは、オムニチャンネルを基盤にブランドサイトとECサイトを融合させたウェブサイトです。いま振り返っると、当時としてはかなり思い切った取り組みだったと思います。

クリエイティブ全般を担当されたTWOTONEさん、グラフィックやタイポグラフィーを担当されたDELTROさんと共同で、THE GUILDではUIのプロトタイピングから設計までを担当しています。

THE GUILDの北田くん(@soohei)とともに、膨大な情報量のウェブサイトを、ペーパープロタイプに始まりUIのモックアップまで、全体の整合性や使い勝手を含めて、時間をかけて取り組んだ案件です。

— noteの「スマート新書」も麦田くんのお仕事ですよね?

はい。(noteを運営するピースオブケイク社の代表)加藤さんから「新しい書籍を作りたい」というお話をいただいて。私たちは書籍表紙の装丁やウェブサイト、写真撮影などを担当させていただきました。

装丁については、オンラインでの販売を前提に、タイトルごとのテーマカラーの設定やタイトル/イラストなどの情報整理など。「ラインナップの増えた場合にどう見えるか」、「コンパクトなエリアの中で、どのように分かりやすく情報を整理するか」といった点を意識しています。

THE GUILD以外にも、自社のScannerとしてお手伝いさせていただいた案件では、日本橋浜町にオープンしたホテル「HAMACHO HOTEL TOKYO」と、併設されたチョコレートショップ「nel craft chocolate tokyo」です。

HAMACHO HOTEL では、ウェブサイトのデザイン・ストラテジーを担当させていただいています。

浜町は緑豊かな街であり、同時に下町の職人文化や手仕事が根づく街です。プロジェクト全体の大きな目標として、「街の魅力やクラフト文化の価値を伝える」というポイントがあり、デザインとして手を動かす前に、まず現地の街並みやショップを自分たちの足でを歩いてリサーチし、街並みを体感するところから、プロジェクトを始めています。

nel craft chocolate tokyoもホテルと同様、日本の手仕事やクラフトの文化に基づくブランドです。

こちらは、ブランドのコンセプト策定に始まり、VIや商品パッケージ・ショップサイン、印刷物からウェブサイトまで幅広く戦略とデザインを手がけさせていただきました。

「ブランドをつくる」ことは麦田さんにとって、どのような仕事なのでしょうか?

ブランドについては、数々の書籍や先達によってまとめられていますが、私自身は「過去の思想や文化をもとに、今を形づくり、未来に繋げる」仕事と広義に考えています。

先の nel craft chocolate tokyoのプロジェクトでの商品/ブランドの体験は、チョコレートを口に運ぶ瞬間以外にも、挨拶の際に持参する、あるいは来客時にコーヒーやお茶と一緒に差し出すといったシーンにまで及びます。

つまり、相手に対する感謝や敬意、あるいは自分の趣向を伝える「コミュニケーション媒体」として機能し得る。ここから茶の湯に着想を得て、古今様々な書籍から考察を重ねることになります。

中でも、岡倉 天心さんの書籍『茶の本』にある東西文化の比較や、谷崎 潤一郎さんの書籍『陰影礼賛』にある視覚や触覚の表現などは、表現レイヤーに出すことはなくても、ブランド設計の思想として取り入れています。

これらの考察と検証を経て、ブランドの特徴となるカカオ和紙と重箱型のパッケージが作られます。

和紙は、チョコレート製造の過程で生じるカカオハスクを原料の楮に練り込み、職人が一枚ずつ手漉きで仕上げたもの。原料の仕入れから商品を手がけるブランドだからこそ実現できたプロダクト。パッケージは、重箱の構造に習ったもので、開けたときの高揚感を演出してくれます。

箱表面には一切の装飾をいれずに「い織」のザラリとした質感を強調。内蓋に一箇所だけ、ロゴマークでブランドを印象づけるというのはデザイナーとしてのこだわりです。

自分らしい仕事の仕方だったり、仕事するにあたって意識していることはありますか?

プロジェクトを進行するなかで、データに基づいた意思決定や、フレームワークを用いた思考・意見の整理をする場面も多いのですが、それらだけに頼らず「自分自身で体験する」「直にみる」ということを大切にしています。

例えば、ファッションのECに関わる仕事ならば、服を購入して着てみる。投資に関するサービスなら、自分で株を勉強して買ってみる。チョコレートだったら、とにかくいろんなお店を回って食べ比べてみる……といったように小さなところから、リアルな体験を自分の中に蓄えて、アウトプットに繋げていく。そうしたリアルな体験から生まれたサービスやブランドは、きっと長く残ってくれるんじゃないかなと。

トレンドとして時流に消費されていきがちな現代ですが、長期的な視点で振り返ったとき、自分の手がけたものがその先の時代の価値観や文化に繋がっていったら、それが理想です。


THE GUILDに参画して学んだ仕事に対する姿勢

ちなみに、麦田さんがTHE GUILDに参加したきっかけは?

THE GUILD の発足後に、深津さんから声がけをいただいたのがきっかけです。

当初は、自分のスキルや考え方と合うか不安な面もありましたが、深津さんから今後の展開やチームとしての理想を聞き、自分にはないアイデアも多かったので興味を持ちました。

あとは、チームとしての多様性や、自分にない価値観をもつメンバーが多かったことも魅力的でした。自分自身、職人気質が強くひとつの分野に集中しがちなので……(笑)。

また、グラフィックやブランド構築といった技術や知見で、チームに貢献できるのではないかと感じたところも大きかったです。

実際、THE GUILDに参加してみて何か変わった部分はありましたか?

メンバーに共通するスタンスですが、「(クライアントに増して)前のめりでプロジェクトに参加する」という姿勢を学べた点が、一番大きかったです。

「頼まれたことをやる」ではなく、様々な知見のメンバーと協力して、より良い成果を目指す。そしてコミットメントが自分に返ってくる、そんな仕事の関わり方に影響を受けました。

今後はどのようなことに力を入れていきたいですか?

プロジェクト面では、過去に関わった案件の延長線として、人々の生活や文化、価値観をアップデートする事業・企業を手がけていくことが理想です。特に、施策や制作のベースとなるコンセプトの策定などで価値を発揮していけたらと。

プロジェクト以外では、ワークショップなどを通じて、様々な人やスキルを繋ぐことができたら面白いですね。自分が教えてもらった技術を、次の世代に伝えていくことができたらという想いもあります。

最後にメッセージをお願いします。

UX/UIの設計から、テクニカルやデータ解析、そしてグラフィックやブランド構築……と、メンバーごとの守備範囲の広さや垣根のないフランクさが「THE GUILD」というチームの特色だと思います。

メンバーをなんとなく怖そうに感じる方がいるかもしれませんが、意外と皆さん気さく(笑)。一人ひとりの興味の幅も広いので話してると思わぬ話に広がるのも面白いです。

プロジェクトの相談や打ち合わせ以外でも、ぜひ気軽にオフィスに遊びにきてくれたら嬉しいなと。

ありがとうございました。

麦田 ひかる / Hikaru Mugita
Art Director
THE GUILD member, Scanner 代表 / Design Director

2013年に「Scanner」を設立。デザインを「人々を取り巻く環境をかたちづくり、生活に意味を与える行為」と捉え、衣食住や観光分野を中心に、様々な企業/事業のブランドデザイン、サービス/プロダクトのデザインディレクションを手がける。

Twitter: @HikaruMugita