「面白そうと感じたことはまずやってみる、そこから自分の得意範囲が見えてくる」吉竹 遼 – メンバーインタビュー #12
THE GUILDメンバーインタビュー、第12回はデザイナーの吉竹 遼さん(@ryo_pan)です。
フェンリル株式会社でスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、UXデザインを手がけるSTANDARDへ参画。2018年に独立し、THE GUILDにも参画することになった吉竹さん。
これまでのキャリア、仕事を通じて得た気づき、今後の展望について話を訊きました。
出会いに導かれ築いてきた、デザイナーとしてのキャリア
ー 吉竹さんはどういうきっかけでデザイナーの道を歩み始めたのですか?
大学ではプロダクトデザインを専攻していて、元々はプロダクトデザイナーになることが夢だったんです。
しかし、学生時代にiPhoneが発売されたこと、当時所属していたゼミがデジタルやプログラミングを扱っていたことから、プロダクトだけでなくスクリーンにも興味を持つようになりました。その結果、卒業後は当時スマートフォンアプリ開発で有名だったフェンリル株式会社に入社することになったんです。
実は僕、就活に失敗して就職先が決まらないまま大学を卒業していて。フェンリルとの出会いは大学卒業後。たまたまTwitterでアルバイト募集の投稿を見かけて、面接をお願いしました。
フェンリルは本社が大阪にあり、当時はまだ70人くらいの規模の会社でした。結果的には正社員として採用していただいたのですが、僕が所属することになっていた受託制作の担当部署はデザイナーが2人、しかも2人とも大阪勤務ということで、未経験者だった僕は東京勤務ならアルバイト、大阪勤務なら正社員と提案を受け「(大阪に)行きます!」と即答しました。
大阪に行った翌日からは早速仕事。右も左もわからなかった僕ですが、とにかくやるしかないと、がむしゃらに働きました。途中で東京へ戻ってくるなど環境の変化はありましたが、フェンリルに在籍した3年半は、アプリのデザイナーとして働いていました。
ー その後、アプリやWEBサービスのUXデザインを手がけるSTANDARDに転職されたんですよね。
そうですね。とあるイベントでSTANDARDのファウンダー、鈴木健一さんとお会いしたことが転職のきっかけでした。
イベントの懇親会で鈴木さんとお話する機会があり、転職を考えていることを口にしたところ、「STANDARDに来ます?」と言ってくださったんです。そこで深く考えるまでもなく「行きます!」と(笑)。
当時の僕は、「スタートアップ」や「リーンUX」という言葉すら知りませんでした。そんななかでも決め手になったのは、鈴木さんの人柄と、直感で「面白そうだ!」と感じられたこと。
STANDARDでの業務は、UIデザインなどフェンリル時代の仕事の延長線上にあるものがメインでした。ただ、フェンリルではすでに決められた要件に沿ったデザインを考えることが多かったのですが、STANDARDはもう少しビジネスにも入り込んでいくスタンスで、デザインだけでなくサービスも考える機会に恵まれました。
サービスのコンセプトづくりだったり、プロダクトとしての妥当性の仮説検証だったり......お客さんによって出発点も異なるので、いろいろなことに取り組めたのはすごくおもしろかったです。
ー STANDARDはUXデザインの情報発信も盛んで、当時記事などよく拝見していました。そこから吉竹さんが独立されたきっかけは何だったんですか?
きっかけは、STANDARDがいわゆる「ギルド型組織」に舵を切ったことでした。社員はフリーランスとなり、STANDARDから案件を受託する方針に変わったので、その流れに乗って独立しました。不安もありましたが、「なんとかなるだろう」と。
ちょうど独立したタイミングでTHE GUILDの安藤さん(@goando)と知り合う機会に恵まれ、カメラ好きという共通点もありミートアップに呼んでいただいたりして、THE GUILDに誘っていただきました。もちろんTHE GUILDのことは知っていましたし、声をかけていただけてすごく嬉しかったのを覚えています。
ただ一方で、「自分なんかでいいのか?」という不安もありました。でも、自分を卑下することは声をかけて下さった安藤さんに失礼だし、せっかくもらったチャンスを逃す手はないのだと思い直すようになりました。
ー 独立後はどのような仕事を手がけていらっしゃるのですか?
tsumug が展開するプロダクトのスマホアプリのUIを中心に、デザイナーとして携わらせていただいている仕事がメインですね。
あとは、単発でロゴデザインをやらせていただいたり、写真の撮影を担当させていただいたり、THE GUILDでは勉強会「THE STUDY by THE GUILD」の運営もお手伝いしています。
吉竹さんがデザインしたデザインビジネスマガジン『designing』のロゴ。ロゴの制作過程はdesigningに自身で寄稿している。
― 吉竹さんは、デザイン系書籍の執筆もされていますよね。幅広く活動されるうえで、どうバランスを取りながら仕事を組み立てられているんですか?
独立してから、「アプリケーションのUIデザインだけを仕事にしているのはもったいないな」と感じるようになりました。だから今は、デザインの比重は半分くらい、残りの半分を自分の興味がそそられる活動に費やすようにしています。書籍の執筆や写真撮影はまさに後者、自分が興味を持ったからこそ携わっているもの。
人との繋がりからご相談いただくことが多くて、たとえば、最近書いた『はじめてのUIデザイン』という書籍。執筆のきっかけはTwitterでした。この本は「PEAKS」という技術書クラウドファンディングを利用して出したのですが、「PEAKSさんでデザイン系の本を出したら面白そうだ」と思いながら書いた僕のツイートをPEAKSの方が見つけて下さり、実現したんです。
書籍『はじめてのUIデザイン』
― 1社目のフェンリルに入社したのもTwitterきっかけでしたよね。Twitterが吉竹さんの人生に大きな影響を及ぼしている(笑)。色々なお仕事をされている中で、最近、大きな気づきを得られたとか。
そうなんです、最近ターニングポイントになった出来事があって。女優・声優の生田輝さんのポートレート撮影の仕事だったのですが、これまでとは異なる新しい経験をたくさんさせてもらいました。
声優さんや俳優さんって、Twitterを見ているととても明るくて前向きなんです。もちろん、裏ではいろいろ悩みがあると思うのですが、そういうことを一切表に出さない。
そう考えるようになってからは、何気ない会話やツイートにも意識を向けるようになりました。襟を正す、というか……ネガティブなことや小言ではなく、読んでもらって楽しい気分になるようなことを発信しようと意識改善を始めています。仕事というよりは、自分の精神的な部分を変えるきっかけになりました。
自分がデザイナーとして普段仕事をしながら接する人たちとはタイプが違うので、すごく刺激を受けましたね。
― 今春からは教鞭も取られているんですよね。
そうですね、今は東洋美術学校の高度コミュニケーション学科でインターフェイスという科目を担当させていただいています。授業内容としては、アプリのUIやデザインを考えることがメインですが、「なぜUIを作る必要があるのか」「サービスとUIの関係構造はどのようなものか」という視点も持ってもらうよう意識しています。
学校教育に携わってみて気づいたのは、意外と「クライアントワークに似ている」ということ。
学校や学科から方針が定められている一方で、学生さんには「こういうことを知りたい」という想いがある。教員は学生に合わせるだけではなく、「ここまで学んでほしい」という気持ちも織り交ぜながら、「受けてよかった」と思ってもらえるような満足度の高い授業をデザインする。こういう側面はクライアントワークに近しいと感じています。
授業は1回3時間で計12回、つまり計36時間。これって、会社で考えると1週間の労働時間にも満たないんですよね。だからその限られた時間で何を学んでもらうべきか、いつも頭を悩ませています。
今の経験は5年、10年後に活きる確信がある
― 仕事を受ける際にはどのようなことを重視していますか?
「意思決定者の隣で仕事ができるか」が重要視しているポイントの1つです。担当者がいて、その上司がいて、さらにその上に社長がいて......というような体制はなるべく避けたいと思っています。一緒に考えて、一緒に意思決定していくという体制が望ましいですね。
あとはもう、自分が「面白い」と思えるかどうかです。これまでのキャリアもそうでしたが、面白いと思ったことはとりあえずやってみたいと思っています。
その根底には、自分の得意分野があまり分かっていないということもあると思います。これまでの経験からアプリのUIデザインができるという自覚はあるけれど、それ以外に何ができるのか、自分でもよく分からない。仕事や人付き合いを通じて周りに教えてもらうことで、自分の輪郭が見えてきているような気がします。
感情ベースで動いているので、正直なところ、お金になりづらい仕事もいくつか受けています。でも楽しみながら働いているし、そういう仕事を通じて得られた経験は5年後、10年後に活きるだろうという確信を持っています。
― THE GUILDについてはどうでしょう。所属してみてどう思われましたか?
THE GUILDは、外から見ていると皆さんすごくまじめで、オフィスでは一言もしゃべらない、そんなイメージがありました(笑)。でも実際はとてもアットホームで、それでありながらいい距離感。基本は個で立っているけれど、集まる必要があれば集まる。その塩梅が心地いいなと思っています。
実はまだ自分のリソースとTHE GUILDの案件とのタイミングが合わず、デザイナーとしてTHE GUILDに深く関われていないのですが、今後はUIデザインを中心にワークショップの企画などにも一緒に取り組んでいきたいなと考えています。僕が新規サービスの仕事を受けたときも、THE GUILD メンバーの知恵を借りながら共に仕事ができたら嬉しいですね。
― 最後に、今後の展望などがあれば教えてください。
自分の培ってきた能力や経験を「多くの人に使われるサービス」だけでなく、「特定の個人」のためにも活かしていきたいですね。先ほどお話した輝ちゃんとのお仕事もその一例です。例えば声優さんやアイドルグループのロゴやグッズといった「その人のためのデザイン」に携わっていきたいと考えています。
あと、全く違う方向なのですが、宇宙関係の仕事はいつかやってみたいことのひとつ。実は宇宙が大好きで、宇宙旅行のカスタマージャーニーマップを考えてみたこともあるくらいです(笑)。宇宙旅行のサービスとか、宇宙船内・宇宙の居住区、無重力下でのデザインに取り組んでみたいですね。
そして、執筆活動にも変わらず興味があります。『はじめてのUIデザイン』のように、考え方など長く残るような情報を残していきたいです。いわゆるHow To系の情報はすぐに変わってしまうので、自分だけでなく周りの人たちの考え方なども含め、次の世代に長く残るようなものを作っていきたいと考えています。
― ありがとうございました。
吉竹 遼 / Ryo Yoshitake
Designer
THE GUILD Member / よりデザイン 代表
フェンリル株式会社にてスマートフォンアプリの企画・UIデザインに従事後、STANDARDへ参画。UIデザインを中心に、新規事業の立ち上げ・既存事業の改善などを支援。2018年に よりデザイン として独立後、THE GUILDにパートナーとして参画。著書に『UIデザイナーのための Sketch入門&実践ガイド』『はじめてのUIデザイン』など。
Twitter: @ryo_pan