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「僕らが作らなければいけないのは美しいもの」 大宮 聡之 - メンバーインタビュー #04

こんにちは。THE GUILDの市川(@nagiko726)です。

メンバーインタビュー第4回、今回ご登場いただくのは、UI / UX デザイナーの大宮 聡之さん (@we6tr0n)です。

THE GUILDへはボードメンバーとして参画。同時に自身で経営するwebtron、MoneySmart、2つの会社の代表取締役を務めながら、デザイナーとして第一線で活躍する大宮さん。これまでのキャリアから、デザイナーが担う業務の範囲やその内容が変化していく中で伝えたいことについて、お話をお伺いしました。

目次
・師匠 モート・シナベル氏との出会い
・独立後、自身の会社webtronを設立
・フィンテック関連の事業を手がけるMoneySmart
・デザイナーとしての本当の素質とは


師匠 モート・シナベル氏との出会い

― これまでメディアのインタビューなどにはあまり顔を出されてこなかった大宮さんですが、まずはご自身のバックグラウンドやキャリアについてお伺いしたいです。

大学時代は工業デザイン学科でヴィジュアルデザインを専攻していました。

卒業後は就職もせずフラフラしていたんですが、大手印刷会社の構内にある写植屋さんでアルバイトをはじめました。ピンセットとセメントで写植を貼ったりとか、ロゴなんかも紙焼き機で拡大して、今は亡き「版下」をつくるのが主な仕事の1つでした。

その後、社員にならないかと誘われて社員になったんですけど、1年位で学びがなくなってきてしまって。そんな時に、とある音楽会社に勤めていた友人が「付き合いのあるアートディレクターがアシスタント募集してるから会ってみれば」と声をかけてくれて。それが今でも僕のボス的な存在である、モートさんとの出会い。

現在はフォトグラファーとして活躍されていますが、当時、モートさんは有名ファッションブランドのカタログやCDジャケットのアートディレクションを手がけていたんです。

アシスタントをしていくなかで、クリエイティブにつながるインプットの仕方・アイディアの育て方といったマインドセットから、タイポグラフィ・レイアウト・デザインにおける写真の取り扱いといった手の動かし方まで、じわじわと体に染み込ませられるような時間を過ごしました。

― デザインアシスタントは長かったんですか?

本当はもっと続けたかったんですけど、1年ちょっとです。

僕、写植屋さん時代から、友人たちと自費出版でデザインフリーペーパーを作ってたんですけど、その頃、それを見た会社さんから、お仕事をいただけるようになってきていて。

昼間はモートさんのところに行ってアシスタントをして、夜は自宅に戻って仲間とフリーペーパー制作、受託ワークという生活を続けていたら、破綻しちゃったんですよね。モートさんが隣でいろいろアドバイスしてくれているのに、気づいたらモニタの前でマウス握ったまま寝てたりとか。

この生活は続けられないなと、独立させてもらって、フリーランスのデザイナーとして活動をはじめました。


独立後、自身の会社webtronを設立

― 独立後のフリーランス時代はどんなお仕事を?

最初はエディトリアルが多かったですね。若者向けのファッション紙が中心でした。

また、音楽関連の仕事も楽しくて続けていました。友人がDJをやってたので、彼のCDジャケットのデザインをしたり、新譜のプロモーションでドイツの各地のクラブを1ヶ月ぐらいVJとして一緒に回ったのはすごくいい経験でした。

いろんなめぐり合わせでhitomiさんの年越しライブのVJをやらせてもらったのも思い出深いです。

その後、Flashが全盛期に入るんですけど、音楽関連のウェブデザインの仕事が増え、独学でFlashの勉強をしながらアーティストのウェブサイトを作ってました。当時、Flasherが集まるコミュニティがあって、深津くんとの出会いはそこですね。

webtronを立ち上げたのはその前後だったと思います。デザインにかかわる仕事はずっとしていきたいので、自分の生涯続けていく会社だと思ってやっています。


フィンテック関連の事業を手がけるMoneySmart

― webtronと並行して経営されているのが、フィンテック関連の事業を手がけるMoneySmartですよね。MoneySmartはどういう経緯でスタートしたんですか?

iPhoneが発売された当時、MoneyTronというお小遣い管理のアプリを作ったんです。

Apple Storeのデモ機にインストールされたり、ランキングも上位だったので、その時はそれで満足しちゃっていて。そのうちPFM(Personal Financial Management=個人の財務や金融資産を管理すること)関連のアプリやサービスがどっと増えたのと、自分自身のモチベーションがそこまで高くなかったこともあってガガッと斜陽してしまった。

とはいえ、自分が納得して使えるようなものが存在しなかったんですね。そんなフラストレーションが数年溜まってきて、もう一度デザイン視点でサービスを作れないかなと思ったのが、MoneySmartをスタートさせた一つの動機です。

― スタートアップを立ち上げてみて、実際どうでしたか?

アクセラレーションに参加したり、ピッチしたり、展示会に参加したりと全く新しい体験だったのでとてもエキサイティングでした。ただ、スタートアップがどういうもので、サービスがどうやって作られていくかというプロセスや方法論を、スタートした時点で知らなすぎました。

一方的な仮説に基づいた価値を追い求めた結果、プロダクト・マーケット・フィットできてない状態に陥ってしまって、ニッチなユーザーにはすごく刺さるものにはなったけど、サービス的にはそんなにうまくいかないという経験をすることになって。

とはいえ、どういうふうにやったら失敗してしまうのかみたいなことは体感をもって知ることができたし、その後の学びからスタートアップ関連の知識であるリーンスタートアップやグロースハックの手法や考え方をデザイン業務に活かせるようになったのは、自分のドメインを広げる意味で大きなプラスになりました。

また、フィンテック周りでデザインに課題感を持ってるお客さんって多いんですよね。そういう方々から興味を持ってもらって、UXデザインを手伝ってもらいたいというご相談を頂くことも増えました。

形は違えど課題を感じていたフィンテック領域の体験を向上するお手伝いをさせていただけているのはありがたいなと思っています。

― 設立当初は自社サービスの開発をされていたわけですが、MoneySmartとして最近はUI / UXのコンサルティングや受託の開発案件が多いんですか?

そうですね。ちょっと前にはなりますが、みずほ銀行さんの「ペア口座アプリ~Pair~」の企画とUI/UXデザインをお手伝いさせてもらいました。結婚とかすると一つの口座を2人で使ったりとか管理することってあると思うんですけど、それをアプリでできるようにしたものです。

こういった受託の案件をたくさん頂いていますが、現在はそちらと並行しつつ、新しい自社サービスとして親子で使える子どものおこづかい管理向けのPFMサービスを作っているところです。

― 乞うご期待、ですね。


デザイナーとしての本当の素質とは

― 最近、大宮さんTwitterで「デザイナーが知っていると(たまに)役立つ横文字略語」をほぼ毎日配信されているじゃないですか。

UXデザインってリーンやグロースと隣り合わせな面がすごくあって、マーケティング用語やスタートアップ用語がどうしても業務上でてきちゃうことが多いんです。で、いかんせん略語が多いと。まとめてあると便利だし、ちゃんと書くと自分の勉強にもなるので、チートシート作るぐらいのつもりでやっています。

逆に、”たまに役立つ”と言ってるとおり、別に知らなくてもできるデザインはたくさんあるし、それを引け目に感じる必要もないものだとも思っています。

― 昨今、デザイナーの仕事が本当に増えていますよね。

デザイナーが今までリーチできなかったようなことに挑戦できるようになってきたのは純粋に素敵なことだし、ぼく自身もそれを楽しんでいます。

ただ、先日のTHE GUILD勉強会でも題材になったジョン・マエダさんの「Design In Tech Report 2018」で “クラシカルデザイン” という言い方で触れられていた、デザイナーとしての本当の資質、きちんと美しいものを作るというところが軽視されがちになっていることには、違和感を感じています。

ロジカルにデザインを構築する能力ばかりが重視されるようになってしまって、感性的な部分みたいなのがすごくなおざりになってるというか。

― デザイナーが担う業務の範囲やその内容が変化していく中で、大宮さんは東京造形大学での講師をしたり、ご自身の会社で若手を雇用したりと、若手の育成にも意識を置かれていますよね。

大学ではデザイン思考とデザインスプリントのワークショップを担当していて、新しいデザイン領域のおもしろさや考え方を紹介していますが、一方で一番伝えたいと思っているのは、最終的に僕らが作らなければいけないものは「美しいもの」だということです。

昨今デザインシステムの話だったりとか、デザインの論理性やに統一性が重要だというようなことが盛んに言われていますが、デザインってそんなに甘くないと思っているんですよ。セオリーに従って機械的に手を動かしさえすれば、美しいものができるって思ってる時点で、それは間違ってますよね。

たとえばレイアウトを揃えるときに、機械的にそろえたものと、人間が見て「あ、そろってるな」って思うのって、若干違ったりするじゃないですか。そういう点を感性的に調整して、本当に美しいものにアジャストできるか、みたいな能力。

それって美しいモノの定義とか、美しいレイアウトの定義とか、自分の中でそのイメージが確立していないと、アウトプットできない。だから、それを日々鍛錬していくことを大切にしてほしいな、しなきゃいけないなと思います。

― 今後、力を入れていきたい分野や業務はありますか?

THE GUILDとしての仕事は、UXデザインのコンサルティングも多いのですが、理想論ではなくてリアルな現場に投入できる提案をしていきたいというのはあります。実際に自分自身でやったことがあって、その結果を身を以て知っているものじゃないと、もしぼくがクライアントだったら信頼できないと思うんで。

新しいことに興味を持って、自分で試して転んで、その結果を仕事に生かしていく、というスタイルをキープしていくことは今後もちゃんと気を張って大切にしていきたいなと思います。

― ありがとうございました。


大宮 聡之 / Satoshi Omiya
UX/UI Designer
THE GUILD board / webtron Inc. CEO / MoneySmart Inc. CEO

アートディレクター Mote Sinabel 氏に師事し、フリーランスのデザイナーとして独立。2007年 webtron Inc. 設立。アプリの設計・UI デザイン・UXDコンサルティングの領域を中心に活動中。2014年に家計簿サービスを提供するスタートアップ MoneySmart Inc. を設立・運営を開始。HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

Twitter: @we6tr0n